永遠の課題
ケン・イシイに会ったのは1998年。オレが「Mother」をリリースしてある雑誌で対談をしないかと言うお誘いをもらったのだ。
オレはケン・イシイがデビューした時にすでにテクノは聴いていて曲作りもしていたので、R&Sからリリースした「Garden Of Palm」をレコードで持っていたし、すごいなとも思っていた。
今は亡きシスコには二週間に一度で買い出しに行っていた。二週間に一度新作の入荷があるからだ。シスコにはDJブースがあってそこにたむろしているDJもどきのやつらとかが群がっていて胡散臭かった。レーベル別にもレコードはあったが、アーティスト別にもあってオレは金がある分全部レコードに費やしていた。
クアトロにHMVがあってそこもテクノのCDを入荷していたのでよく買いに行った。なにせテクノに関しては情報誌がなかったので、オレはエレキングが出来る前のミニコミを買って得ていたのだが、CDもレコードもマニアックなものは売り切れで、こっちからオーダーしてもらって買うことも多々あった。
今みたいにDiscogsとかないから視聴して気に入ったものは全部買ってたね。買われちゃうのが惜しいから。別にDJを目指していたのではない。単にどうやって曲の構成を練っているのとか、シンセの音作りとかを研究したいの一心だった。
信濃町のソニーで対談は行われたのだが、ケン・イシイは一日に何件もの対談やインタビューもこなしていたので、オレもスルーされて終わりかもなんて思いながら行った。
ケン・イシイも「Sleeping Madness」というアルバムを出したばかりで、お互いのCDを聴き比べて行う対談となっていた。奴はオレの「Kool Acid Jazz」を出して来て、これいいよね、とか言ってたけど、オレは正直当時好きではなかったので、聴いて行かなかったんだよね。適当なこと言ってた。
それで、オレがサワサキ・ヨシヒロと出会ったのは当時Less Than TVで働いていた奴がオレの「Mother」をそこから出したがっていて、結局フっちゃったんだけど、その事務所にスタジオがあって、オレはDATをたくさん持って遊びに行ったらサワサキがスタジオに入って来てオレの服装を見て「下北沢系ですね」なんて失礼なことを言いやがったからオレはサワサキのことを「北区系ですね」なんて言ってその日は終わったのだが、それをケン・イシイに話すと、奴は身を乗り出して「ニューヨークのジャズメンの映画があって」と切り出してきて、オレは「メロディーを作るミュージシャンに憧れるテクノ・クリエーター」と言ったら余計乗り出して来て、最後に「まあ、新しい奴が出て来てもぶっ潰すけどね」と言って対談は終わったのだが、終わった後奴は次の取材があって部屋に残ったが、女性マネージャーがオレに駆け寄って来て「ケン・イシイがあんなに熱くなってたの初めて見ました。ありがとうございました」だって。クールだもんな。またそれが許されるんだもんな、世の中って可笑しい。
その後、山梨のレイヴにスザンナと行ったらケン・イシイがライヴやってて、ライヴ中に停電になって休憩となってしまった。オレは悪友がスタッフをやっていたので楽屋に乗り込んで奴に挨拶すると「まったく参ったよ、君のこと覚えてるよ」と言った。
本当にM1だけでライヴやってんだ、と思ったね。シーケンスを組みながらやってる。ハードフロアも出たんだけど、303と909並べて一曲終わったら「はい、ちゃんちゃん」と拍手をもらって次の曲の支度をしていたけど、ケン・イシイはワン・ステージ一曲というスタンスで即興でやってたもんな。
オレはさ、あれから年月が経って、嫌いだったケン・イシイの音源を好んで聴いているのよ。と言っても2枚だけだけど。「Garden Of Palm」と「Sleeping Madness」。この2枚は強力だ。なんせ、みんなアナログ・シンセに憧れてそれを求め、それを使って曲を作っていたものをケン・イシイは最初っからデジタル・シンセのみで作ってたから。オレはそう言う変なこだわりとか嫌いだった。でも後から考えるとその考えは正しいと思う。アンチテーゼだね。
オレのギターシンセ「Jackytronix」を一緒に作ったフランク・シゲトラという奴がいるんだけど、彼はその頃高校生で金がなく、安物で買ったDX7とかで当時1995年ぐらいにDOSのパソコンにオーディオ取り込んで作曲してた。その音源は良い意味でぶっ飛びまくってたもんな。でも時代がロッテルダムとかだったので、その勢いもあって、その後劇団がやっている宗教っぽいレーベルに足を突っ込んでしまい、オレは身内だけで盛り上がるパーティーにドン引きして彼から離れてしまったもんな。シゲトラが作ってたガバはすごかったんだから。でもmixiが流行った時に連絡をくれたけど。今何やってるかな?DJバーを立ち上げたと言ってたが。会ってみたいもんだ。
デジタル・シンセはつまみがなくて、音色のプログラミングも難しい。プリセット使ってんだもん、みんな。ケン・イシイは最初M1を買った時にプリセットが全部飛んで一から作ったと言っている。それは非常に嘘くさい。だって、デジタル・シンセってPCM音源じゃん?一から波形を作れるわけがない。サンプリングなんだから。ドラム音源なんてどうすんだよ、一から作れんのかよって感じ。
でもさ、あれだけ有名になれば嘘の一つや二つは真実になんのよ。それにオレはオンライン英会話習っていて英語には自信があるんだけど、ケン・イシイも英語は達者なのよ。またYouTubeとかで英語で答えているインタビューとかがあるんだけど、胡散臭くてね、ペラペラなのが。そんなの英語圏のやつからしてみれば「普通だろ」って言われるものを、やあっぱり日本人の持つ英語コンプレックスは大きなものがあるじゃん、って思うね。ケン・イシイも英語に苦労したはず。
オレはデジタル・シンセは父親から譲り受けてそれを返してえちご屋で2万で買ったKorgのT3(M1と姉妹機)とRolandのMC-307を手元に置いているが、両方とも最強だぜ。アナログシンセは押し入れに眠っている。オレの場合、若い頃金がなくてテクノユニットを組んでもT3でしか作れなかったからデジタル・シンセは呪いみたいに嫌いだったし、コンプレックスに思っていたけど、シーケンサーがパソコンになってからコントロール・チェンジは簡単に送れるし、プログラム・チェンジなんて使わないけど、オーディオも取り込めるようになってそれからデジタル・シンセも見直したね。ついこの前まで思っていたのが80年代、90年代の香りが拭えないということだったが、それも考え方次第だね。オレは個人的にREAKTORも好きだから、アナログ・ライクなものもいまだに好きなんだけど、REAKTORはエミュレーターとしてはかなり完成されているが、音の分離に関してはハードに勝てない感じもあった。それも考え方次第でどうにでもなるって後から知ったけど。
ブレイク・ビーツってのが好きになれないのよ。あの90年代臭さが。アシッド・ジャズっぽさが。アシッド・ジャズも最近聴き直しているんだけど、いい作品はやっぱりドラマーに叩かせてるぜ。それにレア・グルーヴは完全バンド・サウンドだしな。オレはさ、テクノや現代音楽にある反復ってのが相当クオリティーが高くないと飽きちゃうのよね。10分も20分も垂れ流されちゃうと困るよ。出来れば音色も変わって欲しい。90年代のテクノに耐えられないのは反復だよ。
サワサキ・ヨシヒロとは15年ぶりぐらいに会う機会があって、彼もおじさんになっていたし、アンビエントが好きなことはお互い分かっていたので、話してみると優しくて、そうだ、あの時代は誰でも構えてたもんなと思ったよ。簡単には心は開かないよ的な。六本木で遊んでそうな。六本木なんて田舎もんの集まりじゃんか。ダサい。あんな街では何も生まれないよ。
オレはさ、いろんな音楽やって来たけど、これからを考えると現代音楽なのよ。人件費が払えないのでしばらくはエレクトロニクスの力を借りると思うが。現代音楽ってさ、難しいイメージと作者の自己満のイメージが強くて今までスルーして来たの。でも、いいもんはやっぱりポップだよな。出来るだけシーケンスもなくてサンプルも使わず、手打ちもなしでアルゴリズムだけで作る音楽に惹かれている。オレにはダンス・ミュージックを作る才能はないよ。まずオレが踊んないし。デブだし。
ギターもアコースティックの世界でいい音楽はここ最近でたくさん聴いたんだけど、音色が変えられないのと、もっと自由に出来そうなんだけど自分も含めて出来ないもどかしさがあってさ、そりゃ変わらない良さってのもあるよ。でもオレの場合はそれ以上の刺激を知ってしまったんだな。バンドみたいに人が集まんないと出来ない音楽も自分の力ではどうにも出来ない。テクノは一人で作れるところがいいよな。誰にも邪魔されないし。
個人的にビギナーズ・ラックは大いにありだと思う。知識のない人が作る音楽ってすごいもん。楽器だと下手で終わってしまいそうなところ、テクノだと自動演奏が手伝ってすごい化け物みたいな曲を作るやつがいるんだよな。音楽の理論も知らなくていい。金をかける必要もない。センスだって大体の奴がそこそこのものを持ってるよ。今はネットで「はい」ってなんでも聴けちゃうし。大事なのは情報が偏っていること。情報をあまり持っていない奴が作る音楽やアートはヤバイから。
ケン・イシイは「Garden Of Palm」は最高傑作だよ。ただ、あれを超える作品を今の彼が作れるかは謎だし、今の彼がそれを望んでいないのであればそれはしょうがないかな。ロック的なアプローチは実はロックを通ってないから憧れてるんだなとも受け取れるよ。ロックンロールは恥じらいを持っていては出来ないよ。テクノの人間にそれが出来るかだよ。テクノの人間はステージでも突っ立ってるだけだろ?VJがいて助かってる。でも本当のVJをフューチャーしたロックのエンターテイメントってのもあるしさ。U2なんて田舎もん丸出しで小っ恥ずかしいこと平気でしてるじゃん?そこがかっこいいんだよ。認められたもん勝ちなんだからさ。これはテクノの永遠の課題。DJの永遠の課題。ぶっ壊してくれ。問題は自分自身へのチャレンジだろ?オレは目立ちたがり屋だからさ、それに負けず嫌いだからそんなことばかり考えてるんだけどなー。
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